学内公開研究会・多分野交流演習

2024年度 「Sustainabilityと人文知」研究会
年度テーマ:環境人文学の探究──エコクリティシズムと環境史の交差から

人文社会系研究科の大学院生向けの授業多分野交流演習「サステイナビリティと人文知」と兼ねていますが、大学院生以外の学内関係者(学部生・教職員)も参加は自由です(紹介があれば、他大学関係者も参加可能)。1度のみの参加もOKです。

ハイブリッド開催となります。「お問い合わせ」ページから、学内メールアドレスを記載の上、ご連絡ください。追って対面開催の教室とZoomリンクをお知らせします。

日程

原則として、(月1、2回)金曜日17時〜19時に実施します。対面とオンラインを組み合わせた形式となります。

4/19 堀江宗正「環境人文学の探究──エコクリティシズムと環境史の交差から」

5/17 結城正美「エコクリティシズムの挑戦」(オンラインのみ)

6/7  小川公代「エコロジーと文学」

6/28 高橋勤「ソローの博物史(ナチュラルヒストリー)」

7/12 野田研一「環境と文学──歴史を振り返る」

7/26 村上克尚「津島佑子の文学とクィアエコフェミニズム──『寵児』を例として」

10/4 五月女颯「足尾銅山鉱毒事件と文学」

10/18  海野聡「古建築を受け継ぐ――メンテナンスからみる日本建築史」

11/1  藤原辰史「環境史から見た食」

11/15  瀬戸口明久「災害の環境史──科学技術社会とコロナ禍」

12/6 菅豊「食文化と環境史―野鳥の味を忘れた日本人」

12/20 大学院生発表

1/10 総合討論

実施報告

4月19日 堀江宗正「環境人文学の探究──エコクリティシズムと環境史の交差から」

まず環境人文学を「人文学のディシプリン、理論、クリティカル・タームから、環境問題について分野横断的に研究し、教育すること」と定義した。また、Routledge Environmental Humanitiesシリーズの書名をテキストマイニングで分析し、そこでの環境人文学は、「人文学」を標榜するものの、自然科学や政治学・経済学との関係は強いことを確認した。

次に、このような環境人文学と本研究会「Sustainabilityと人文知」との関係を考察した。本研究会は、人間と自然あるいは経済と環境の媒介としての文化のサステイナビリティに関心を寄せてきた。その文化を考える上で、個人と社会の媒介に注目する言語論的転回に関わる概念が応用できると指摘し、人間と自然を媒介するものが、二項対立を乗り越えつつ、この二項の形成に関わっていると論じた。そして、その媒介に注目するのがエコクリティシズムであり、またそのロマン主義的形態を問い返すときの参照点として欠かせないのが環境史であると、両者の関係性を整理した。

その媒介の今日的な表現を考える上での準備作業として、sustainの辞書的意味を改めて確認し、「持ちこたえる能力」と言い換えられるとし、人間も自然も「sustainer」として共に苦しんでいると論じた。その実例として、アースデイ東京での対話の場の観察から、気候変動への不安(気候鬱)と活動家の罪悪感が、現代人の実存的不安としてとらえられることを示した。それは個人と惑星の直結という「中抜け」の構造であり、想像力に過度に依存したものであった。次いで、Cornelius「環境と心理」のミュージック・ビデオを実例として、都市住民にとっての自然と個人心理の無媒介性を確認した。

これらを踏まえて、今年度の研究会の目標を次のように定めた。

「生態系と人間の二項対立を媒介するものとしての物語、そしてそれがロマン主義的な虚構を提供するときに、現実に引き戻そうとする環境史の知見、「サステイナー」に対する様々な時間の幅からのアプローチを見ることで、環境人文学を探究する。」