第2シリーズ
プロジェクトについて
サステイナビリティ(sustainability)という語が近年普及し、「持続可能性」と和訳されている。この現象は、科学技術文明は絶えず前進・発展するものだとする臆見への反省に始まり、持続的発展(sustainable development)を継続させようという志向・思考の段階を経て、文明の持続性自体を再検討してその将来を模索するに至ったことを示している。今や、地球温暖化問題やそれに起因する気候問題の緊迫度、他方で世界規模での経済社会システムの再組織化や宗教間・民族間紛争の頻発などの問題出現によって、持続されるべき〈人と社会のありよう〉と持続可能な地球社会実現のための科学・技術の発展との関係を反省的に捉えなおす必要性が強く要請されている。
東京大学では、持続可能な地球社会実現を目指した科学・技術の発展や環境問題への取り組みを、それぞれの教育・研究組織やサステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)においてすでに実践している。人文社会系の研究分野においても、持続されるべき〈人と社会のありよう〉とは何か、という根源的問いが従前から立てられるようになってはいたが、自然科学系の知とどのように交わり恊働することができるか、その対話や連携がなお推進すべき課題として残っていた。
そこで、濱田純一総長(当時)の裁可を経て、2009年に総長裁量経費プロジェクトとしてこの「Sustainabilityと人文知」が発足し、6年間の研究活動をおこなった(第一シリーズ)。その間、2011年3月に生じた東日本大震災と福島原発事故は、日本社会の持続可能性を私たちに切実に顧みさせる契機となった。本プロジェクトとしても、それ以降は震災からの復興をテーマのひとつとして扱ってきたが、プロジェクトの研究活動は2015年3月にいったん終了した。
その後、人文社会系研究科・文学部からの要請に応じた五神真総長の理解を得て、2015年11月から本プロジェクトが第二シリーズとして再始動した。第二シリーズは、五神真総長の提唱する「東京大学ビジョン2020」の一環に位置づけられており、東京大学ビジョン2020推進事業として、活動がさらに加速する。現在、従来の活動理念を継承してsustainすべき価値は何なのかを根本的に検討し、多分野の研究者が一堂に会してその議論を深めていく場を提供しながら、sustainabilityについての研究を続けている。
元来、人文学(humanities)は、人や社会の〈生〉や〈共存〉に関する、人間共通の関心事たる諸問題を発見し、その問題解決の道を探索する学問である。そして、人や社会の〈生〉や〈共存〉に関する根源を問う普遍のことば(概念)や論理を重視し、それらを理論的・経験的に結びつけて有機的に統合された全体像を構築しようとする知的営為である。本プロジェクトは、文理の壁を越え、率直に、大胆に、積極的な対話の機会を持ち、相互に連携を進められるような、理論的・実践的な基盤作りをめざすものである。